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日本マジック界の底上げと、マジックの文化土壌の実現を。

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ポール・ガートナーが『ペン&テラ—:フール・アス』に出演したときの裏話、第2回目をお送りします。
 



さて前回の「ポール・ガートナーがペン&テラーを騙すまで (1/3)」では、『ペン&テラー:フール・アス』で自分の考えた「アンシャッフルド」を演じることになったまでを書いた。問題は、彼らがこのマジックの秘密を知っているということだ。そんな状況で、どうやって彼らを引っかければ良いだろう?秘密を知られているということは、これで引っかけることは絶対にできないということだからだ。…だが、彼らが予想もしなかったひねりを加えられれば話は別。そこから話は始まった。

そのときラスベガスでの撮影まで2週間をきっていたが、実演に関してテストがまだ必要だった。今のところ鏡とビデオに対してはうまくいっているようだが、観客から見ると明らかにおかしい点を見逃しているということは、往々にしてあるものだ。今手にしているものがペンとテラーを本当に引っかけられるようなものなのか、第三者の目が必要だった。

■テイク1

手順全体を50回ほど練習してから、私は演技をビデオに撮ってみることにした。スムーズにできたものが撮影できたのでこれをYoutubeに限定公開し、10名ほどの友人にリンクを送ってみた。その中には、アメリカでトップクラスのスライハンドの名手たちも含まれている。彼らに頼んだのは、その映像を1回だけ見て、うまく引っかけられたかどうか答えてもらうということだ。1度しか見ないように言ったのは、それがペンとテラーと同じ状況だからだ。彼らもぶっつけ本番で1度だけ演技を見て、仕掛けを推測しなければならない。またその10名には、アンシャッフルドを知っていたり実演した経験があり、このトリックに絶対に引っかからない者たちを選んだ。だが、こちらの予想通りに進めば、そういう人たちこそ最後の現象への警戒心が薄れるものだとも思っていた。

リンクを送った友人たちから、一つまた一つと返事が返ってきた。結論から言うと、彼らの中で仕掛けを推測できたのはただの一人もいなかった。10人中10人、100%の相手が手法を推測できず、完全に引っかかったのだ。これで私はようやく手応えをつかむことができた。しかしこれを1テイクで、生の観客と9台のカメラ、そしてペンとテラーが正面に座っている状況で完璧に行わなければならないのだ。二人合わせて100年分近いマジックの知識を持っている彼らを引っかけるのは並大抵のことではない。

私はアンシャッフルドをテレビで何度も演じたことがある。国内はもとより、イギリス、スペイン、そして日本ででもだ。29年前にトゥナイト・ショーでジョニー・カーソンに演じたことすらあるのだ。その経験から、アンシャッフルドはテレビで演じるには向かない難しいトリックだということが分かっていたが、フール・アスにはさらに別の問題があった。

大抵の場合、マジックが失敗しても対処はできるものだ。例えば、できるだけ早くそれを切り上げて、次の演技に移ればいい。しかしフール・アスでは、一つのマジックを一回しか演じられない。もしその一回に失敗したら…挽回するすべはもはやない。特にこのマジックでは、3回のシャッフルの中で一枚でもずれたら、誰の目にも明らかな失敗が起こってしまうのだ。このマジックに命綱はない。ミスを挽回し、無かったことにすることは不可能なのだ。何か一つでも間違いがおこったら、それで終わりだ。さらに、完璧に行えばペンとテラーの二人は引っかけられるかも知れないが、今回はさらに9台のカメラも騙さなければいけないのだ。それが簡単なことではないのは分かっていた。これに対応するには練習を重ねるしかない。しかも、大量のだ。

難しいスライハンドが必要なトリックを練習するとき、私にはそれを人前で演じる前に自分に課していることがある。まず、必要なテクニックを完璧にマスターすること。そういったテクニックの一つひとつをマスターするのには少なくとも数週間はかかるし、難しさのレベルによっては何ヶ月も、あるいはまるまる一年を要することもある。必要なテクニックをすべてマスターできたと思ったら、ハンドリングを初めから終わりまで細かく分け、台本を書く。それが終わったら、あとは練習するのみだ。その練習も、回数を決めている。300回だ。これはFISMに出場するために「指輪と砂時計」のアクトを練習した回数であり、新しいアクトに関しては今も同じ量の練習をしている。人前で落ち着いて演技するために、新しい演技は少なくとも300回は練習するのだ。別にテレビに出演するわけでなくとも、新しいアクトにこのレベルの練習量を行う事は大切なことだと考えている。もちろん、本番ではその練習量が透けて見えてはいけない。自分だけの秘密にしておくべきなのだ。観客には、そのとき初めてそれを行ったように見えなくてはいけない。まったく、言うは易しだが…。ともかく、これがフール・アス出場のために私が行った準備であり、新しいエンディングを含めたアンシャッフルド全体をあと10日で300回行うことを始めた。

この長い練習の早い段階から演技を撮影し、何度かマイケル・クロースに送った。彼は修正すべきセリフや提案を返してくれたが、新しいエンディングを自然に繋げるための正しいセリフや流れを考えるうえで、彼の助言にはたいへん助けられた。

しかしマイケルへ送った映像を見てディレクターが、さらなる要望を出して来たのだ。デックを揃えて「UNSHUFFLED」の文字が4つ出てくる場面で、デックの側面を左親指で隠せと言うのだ。文字がしっかり読めるようになってから、ゆっくり指をどけて文字を示させたいわけだ。普段の演技では文字がそろう様子を観客に見せるのだが、ディレクターはその見せ方を一番最後だけにしたいということだった。アンシャッフルドは40年以上もの間、同じ見せ方で演じ続けてきた演技であり、それを変えるように言われたわけだ。40年にわたって指が覚えている動きを変えるのは、非常に大きなことだった。本番の映像をよく見ると分かるが、実際に最初にデックを揃える場面で、側面を隠す動きを忘れそうになっている。ディレクターの指示通りにしようと指の位置を変える様子がわかるだろう。長年の癖はなかなか抜けないものだ。

この練習期間中に、スタッフからホテルやフライト、現地での移動手段の確認などが行われた。この番組では演技の前に45秒ほどのパフォーマーを紹介する映像が流れるが、それを担当するストーリー・プロデューサーとのやりとりもこの時期に始まった。本番とは別にこの部分を担当するプロデューサーが別におり、電話でのやりとりを通して紹介映像に使える内容を探るのだ。多くのパフォーマーがこの部分を「45秒のCM」にしたがるようだが、そうはならない、ということは先にクギを指される。その代わり、最大限観客がパフォーマーと感情的につながれるようなものにするというのだ。私がマジシャンになろうと思ったきっかけは父親が撮影した8mmの映像だったのだが(そしてその映像はまだ残っている)その話をしたときに、私の紹介内容は決まった。父のホームメイド映像が全国番組で流されるということに私の体は興奮にしびれた。この映像は最終的にピッツバーグの鉄鋼業者であり、すでに他界している父への素晴らしいトリビュート映像となった。ある意味で私の45秒間の紹介映像は、父の短かった人生やクリエイティブな側面、そして彼の物語を完結させたのだ。

そこからの10日間で、すべての変更を加えた5分間の全ルーティンを150回ほど通した(合計の練習量は200回になった)。かなりの自信と手応えをつかんだところだったが、ここで練習をやめる必要が出てきた。ファロー・シャッフルをしすぎたせいで、両手が震え始めたのだ。これはまずい。300回という目標の2/3しかこなしていなかったが、考えてみると私はいままでアンシャッフルドを10万回以上演じてきたのだ(トレードショーでは1日に20回は演じる)。変更点は最後の5秒だけであることだし、多少のズルは許容することにした。演技も良い感じで仕上がっていたし、時間切れでもあったからだ。

さて次回の最終回では、ついにラスベガスでの異常な3日間の舞台裏について書こうと思う。



次週、いよいよ完結予定です。

出典:www.paulgertnermagic.com


スチール&シルバー 第3巻