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ポール・ガートナーが『ペン&テラ—:フール・アス』に出演したときの裏話、第3回(最終回)をお送りします。以前のエントリーをまだお読みでない方は、以下からお読みください。

ポール・ガートナーがペン&テラーを騙すまで 第1回
ポール・ガートナーがペン&テラーを騙すまで 第2回
 



アンシャッフルドの新しいエンディングが見事にペン&テラーを引っかけられるのか、その結果が分かる時が近付いて来た。4月10日の日曜日、私は妻のキャサリンと一緒に、フール・アスの撮影に臨むためラスベガスへ飛んだ。自分のアクトには手応えを感じており、それがうまくいくようにと願っていた。番組からの車が迎えに来たとき、ドライバーのスケジュールを少し見ることができたが、それだけでこの番組の撮影がとても複雑だと言うことが一目瞭然だった。迎えのスケジュールは、知っている名も知らない名前もあったが、番組に出演するマジシャンの名前で一杯だったのだ。

今回の撮影には楽しみなおまけがついていた。ギャンブルテクニックの達人であり、友人であるリチャード・ターナーとの再会だ。彼と私はこの7月と8月に中国で7週間のツアーを一緒に行い、その間に多くのマジックをしながら共に語らいあったのだ。たまたま1週間ほど前に近況を聞くために電話したが、すると彼は来週ラスベガスへ行くと言う。「そりゃ偶然だね、私も来週行くんだ。どこでショーをするんだい」と尋ねると「本当は言っちゃあいけないんだが、テレビの撮影だ」「待ってくれ…私も撮影で行くんだよ!」という流れで、お互いに同じ番組に出演することが分かったのだ。我々は到着した夜に落ち合う段取りをすぐにつけた。撮影が始まってからでは時間が取れなくなるだろうからだ。

■リハーサル

リオ・ホテルに用意された我々の部屋はスイートで広く、申し分なかった。チェックインが終わると我々は指示されたとおりにボックス・オフィスへ行き、次の3日間のスケジュールをもらった。ホテルに着いたのは14時だったが、予定はその日からすでに埋まっていた。17時から紹介映像(演技の前に流れる、パフォーマー紹介の映像)のためのインタビューが始まる。すでに写真や演技映像、そして父の8ミリの映像などは送っていたが、実際の映像を制作するレイ・グリーンとのインタビューの撮影をしなければならないのだ。

ホテルの自分の部屋にグリーン・スクリーンを持ち込んで即席のスタジオが作られ、そこでのインタビューは75分ほどで終わった。とても熱いライトの中で、レイが私のキャリアのきっかけや演技してきた場所などを尋ねてくる。彼の頭の中ではすでにストーリーができあがっており、それに合うセリフを話してもらいたがっているのが分かった。今回の場合だと、父が作ったホームメイドの8ミリフィルムが、私がマジックや不思議なものに興味を持つきっかけとなったことだ。それが終わると別室のスタジオへ行き、カップ&ボールやダイスの手順など映像に挿入できそうなビジュアルの撮影。マジックをたくさん演じたが、最終的にはカットされたものも多い。45秒でストーリーを語ろうとすれば、その裏ではたくさんのことをしなければならないのだ。

インタビューが終わるとすぐに18時30分から最初のオフステージ・リハーサルが始まった。大きな会議室でマジック・プロデューサーであるマイケル・クロースやジョニー・トンプソンを始めとしたプロデューサーたちが、たくさんのノートパソコンとカメラを持ったスタッフとともに待っていた。そこで演技を2回行い、撮影に最適なカメラアングルを決めたり、映りやすいようなカードの持ち方を打ち合わせた。その時間はとてもストレスフルなもので、最初のテスト撮影ではファロー・シャッフルを始めるときに手が少し震えたほどだ。そこは何とかなったが、もし本番でも同じことが起こったら手をテーブルに当てながらシャッフルする方法に変える、とマイケルに言っておいた。これは30年前にトゥナイト・ショーに出演したときに発見した対策だ。幸いなことに、本番で私が使用するテーブルは十分高さのあるものだった。これは次週に収録するパフォーマーのためにギミックが仕込まれているテーブルだが、ペンとテラーに見慣れさせておくために前もって登場させておくとのことだった。これは私にとってもありがたかった。手順が失敗しそうになってテーブルに手を置くとき、不自然に前屈みにならなくても良いからだ。

リハーサルが終わるとパフォーマーのパスをもらって、ホテルのレストランへディナーへ行った。そこでは数名のパフォーマー達と顔を合わせることができた。同じくショーに出演するジェフ&テッサ・エバーソン、グレッグ・フリューイン、クリストファー・トレイシー&ジム・リーチらだ。その全員が熱気に溢れていた。我々は全員が興奮していて、少し緊張していた。同じ緊張を分かち合える人たちとの会話は、居心地の良いものだった。

ディナーが終わり、ようやくリチャード・ターナーの部屋へ行くことができた。彼は旅行時のパートナーであるダグ・ゴーマンと、驚いたことにギャンブル・エキスパートのジェイソン・イングランドと一緒だった。リチャードと私は互いに今回演じるアクトを見せ合い、見栄えをテストした。リチャードが先に演じたが、彼のギャンブル・ルーティンには完全に騙された。未だに彼がどうやってエースを出したのか分からないし、彼をご存じない方のために書いておくと、彼は盲目なのだ。それから私が新しいエンディングを加えたアンシャッフルドを演じた。間近で見ていたダグとジェイソンが「完全に引っかかった、タネが想像もつかない」と言ってくれたのは心強かった。リチャードも私も、互いがペンとテラーを引っかけられる自信を強くしたが、残念なことにリチャードは翌日、ジムで左親指を怪我するという事故を起こしてしまったため、出演はキャンセルとなる。現在、怪我の経過は良く、2017年に放送されるシーズンに出演する予定だ。それから2時間以上もセッションを行ったところで、翌日からの過密スケジュールを考えて解散することにした。

部屋に戻ってからやはりリハーサルをしておこうと思い鏡の前で15回ほど通したが、妻が「ポール、もう十分でしょう。寝なさいよ」と言ったところで終えた。実にまっとうな意見だ。

翌日は撮影時刻が変更になったため予定より早めに起き、2時間かけて20回ほどリハーサルをこなした。それから11時30分からの紹介動画の撮影にのぞんだ。撮影を行ったのはシーザース・パレスのナイトクラブで、店内にクレオパトラの船がある場所だ。かなりの待ち時間と手持ちぶさたな時間があったが、トゥナイト・ショーのようなセットなど何カ所かでマジックを演じ、父のフィルムを見ている場面を映画館のような場所で撮影したりした。スクリーンが合成される予定の場所を指示されたのでそこを見つめながらポップコーンを食べ、カメラマンはその周囲を移動しながら、ときには顔の数センチまで近づきながらながら撮影した。監督の頭の中にしかない“正しい絵”を撮るための、俳優達の苦労が少し分かったと思う。決して楽しい経験とは言えなかった。これは仕事であり、監督が「OK!」と言うまで熱い照明を浴びながらずっと座っていなければいけないのだ。2時15分に「撮影終了!」の声を聞いたときの安堵感と言ったら!

しかし撮影は完全に終了したわけではなかった。これが終わるとすぐリオに戻り、2時45分からのステージ・リハーサルを行うのだ。本番のステージに立つと、ペン&テラーの番組に出演するという気分が初めて実感された。ステージは大きかったが、もっと巨大なステージを中国で体験していたので、ホームに戻ったような安心感があった。周囲を取り囲むカメラには圧迫感を感じたし、スタジオにはペンとテラーの代役2人がピンストライプのスーツを着て正面に座っており、本番の雰囲気になるべく近づけようとしていた。リハーサルは問題なく終わった。手も震えずシャッフルもきまり、監督とクルーたちの反応も良いものだった。2回だけ演技を通すとあとは入場と退場の練習だけをして、終わった。手応えをつかめたし、確かな自信も感じていた。

■緊張

しかしその夜のディナーの頃になると、その自信が急にしぼんでいったのだ。不安になり始め、疑いが首をもたげてきた。「全国放送でファロー・シャッフルをしくじったらどうしよう?テレビでこのトリックをやるべきじゃなかったんだ…」トゥナイト・ショーのときの経験から、手の映像を大きく抜くテレビには、このトリックは向かないことが分かっていた。わずかなブレでパーフェクト・ファローは失敗するが、それを4回も連続で行わなければならないのだ。そのシャッフルのどこかで1枚でもカードがずれたら、誰の目にも明らかな失敗が起きてしまう。一番怖かったのはファローし損なってかみ合わせを調節することで、一度プレッシャーの中でそれが起こると次からのシャッフルも失敗し始めるだろう。もっと練習しておかねばと思ったが、これは自分に負荷をかけさらにストレスを強めるだけだった。その晩、妻と私はリラックスするためにショーでも見に出かけようかと話していたが、かわりに私は練習をし始め、30回ほどこなした。第2回の記事で触れた300回という目標に近づきつつあったが、これは逆効果だった。一回一回成功はするが、負のスパイラルに陥っていた私にとっては、反対に不安が強まるだけだった。

3時間ほど練習したころ、その間辛抱強く本を読んでいたキャサリンが「ポール、十分できてるわよ。デックを置いて。もう大丈夫よ」と言った。その瞬間、彼女の言うとおりだと思った。彼女の一言を聞いて、道具を翌朝まで触れないように片付けることができた。彼女はパソコンで映画を再生し、私の頭にヘッドフォンをかけて言った。「深呼吸して」私はその通りにした。ゆっくり深く呼吸することに集中し、不安が少しでも首をもたげたら頭の中で「もう大丈夫」とおまじないを唱えていた。翌朝は、また練習したいという欲求になんとか耐えた。道具を片付けてしまう、というのはとても効果的な対処だったのだ。本番にはネクタイをして行くかいかないか迷っているときも、ゆっくりと呼吸をする禅の瞑想を意識しながら考えた(結局タイは無しでいくことにした)。楽屋で静かに待っていると、ホストのアリソン・ハニガンがやってきて、演技後に話すことの打ち合わせを始めた。舞台袖でも気持ちを落ち着かせようとしていたが、他のパフォーマーには冷たくてよそよそしい態度に見えたかも知れない。しかし、そうする必要があったのだ。

■ペン&テラーを騙す

本番で紹介されてから演技をした5分間の出来事は、記憶があいまいだ。演技が終わってアリソンが隣にやってくる。ペンとテラーは正面に座っている。私は平静な声を出そうと努めていた。本番も焦って早くなったりせず、綺麗にできた感触はあった。緊張したかって?イエスだ!汗びっしょりだったが、呼吸は平静さを保っていた。最初のシャッフルのときに神経がぴくつき両手がわずかに震えたのが分かったが「これは目を閉じていたってできる」と自分に言い聞かせ、シャッフルした。余計な動きが最小限になるようテーブルに手を当て、3回のシャッフルを完璧にやりおおせた。映像を見れば、3回目のシャッフルが終わったときに安堵で力が抜ける様子がはっきり分かる。私がこの手順を好きなのは、計算されたクライマックスが次々と起こるからだ。現象は起こるたびに強烈になり、それを見た観客の反応は、演者に自信と手応えを与えてくれる…それこそそのとき私が必要としていたものだ。私が覚えているのは、観客の拍手が波のように感じられたことだ。拍手が起こるたびに、私は押し流されるような気持ちだった。デックの横に「スペードのK」の文字を出したとき、ペンとテラーが油断している顔をしているのが分かった。しかし続けて4度目のシャッフルに入ったとき、それが困惑したものに変わったのが見えた。デックを揃えて「ペン&テラー」の文字が現れたときの彼らの驚いた顔が見えると、自然に笑みが浮かんだ。

ペンとテラーがコメントを相談している間、私とアリソンはテーブルをまわってステージの中央に立っていた。アリソンは客席に、このマジックはペンとテラーがすでに知っているものだと伝えた。私はうなずき、しかしちょっとした付け足しをしたと言った。ペンが感心したように「私はポール・ガートナーの大ファンなんだ」と言ったとき、私はすぐこの言葉をウェブサイトの推薦文に使おうと考えた。彼は私の鉄ボールで行うカップ&ボールの話や、アンシャッフルドを学びたくて本を買ったが演技できるまでにはならなかったことを話した…「まだあきらめてはいないけどな!」そのやりとりのいくつかが最終的にカットされてしまったのは残念だ。

彼らがデックをあらためたいと言ってきたとき、私は彼らを騙せたことを確信した。滅多に起きないことだが、観客がそう言ってくることはある。40年以上も演じていればそんなことも起きるし、それへの準備はしてあるのだ。彼らの調べ方を見ると、デックを何らかの向きにずらしたり傾かせることで文字が変わることを期待していたようだが、すぐにそうではないことが分かったようだった。実際に使った方法はきっとマジシャンたちの興味を引くだろうし、ファロー・シャッフルをしない人たちの興味も引くだろう。これはあと半年ほどしたら発表しようと考えている。我ながら、よくできているアイデアなのだ。

ペンとテラーがそれ以上タネを詮索することなくステージにやってきて、ペンが「このデックを見て分かったことがある」と言ったとき、私は一瞬バレたか?と思った。しかし彼は続けてこう言った。「もし私が同じようにシャッフルしてデックの横を見ると、こう文字が出てくるだろう…ポール・ガートナーは我々を引っかけた!と」客席が沸き返り、トロフィーが運ばれてきた。私は3人と握手をし、下手へ戻っていった。マイクを外すために近付いて来たスタッフが「これであなたの今後のギャラは上がりますね」と言ってくれた。私はその後すぐホテルへと戻ったので、その後に出演したパフォーマーたちの演技を見る事はできなかった。

ペンとテラーを騙せたことは楽しかったが、今回の出来事の中で最高だったのは、二人に実際の仕掛けを説明したときだ。彼らを騙しおおせたことの報酬はトロフィーと、リオでの二人のショーに出演するチャンスをもらえることだ。私は10月の初旬に出演し、その後舞台裏にある「モンキー・ルーム」で二人と話をした。そこで彼らを引っかけた追加エンディングの説明をしたのだ…彼らのためだけに作った5秒間の現象を。テラーはこう言った。「秘密を知ったいま、余計凄いと思ったよ。手法の構成も、現象も、両方とも素晴らしい。しかもそれを君は完璧にやってみせたんだ。こういうものになら喜んで騙されたいよ」この言葉にこそ、本当の秘密が隠されていると思う。相手が業界トップクラスの経験とクリエイティビティを持っている二人のマジシャンだろうと、マジックを初めて見る5歳の子どもたちであろうと、観客は騙されたいものなのだ。また、引っかける方になるのも、楽しいことだ。結局、みんな最初にマジックに惹かれるのは、そういう部分なのだから。
 


 

出典:www.paulgertnermagic.com


スチール&シルバー 第3巻