このサイトはJavaScriptがオンになっていないと正常に表示されません

日本マジック界の底上げと、マジックの文化土壌の実現を。

Email: info@script-m.jp Tel/Fax: 0725-90-7660 9:00~18:00(土日祝日は休み)

マジック界のオリンピックとも言われるFISM世界大会が2015年にイタリアのリミニで開催されます。それに合わせて、FISM受賞者であり、過去に審査員を務めたこともあるティム・エリスが自身のコラムで「FISMで入賞するには」と題した記事を書いていました。ここでは本人の許可を得て、その全文を3回に分けてご紹介します。
 



「どうすればコンテストで入賞できますか?」

FISMを来年に控え、最近そんな質問をよく受けます。

マジックのアクトを新しく考え、練り上げてゆき、それをもって他のマジシャンたちと競う行為を楽しむマジシャンはたくさんいます。しかしここで重要なのは入賞できるかどうかではなく、競うというプロセス全体を通して得られる学びと経験なのです。

この機会に、どんなレベルのマジシャンにも共通する、コンテスト・アクトを作るための考え方を書いていきたいと思います。

まず初めに知っておいて欲しいことは、「友人のマジシャンたちは競争相手ではない」ということ。

これはコンテストに関してだけではなく、マジシャンとしての人生の根底に関わる大切なことです。彼らは仲間であって、敵ではありません。ちまたでは誰かのアイデアやマジック、演出を「盗んだ」という話をたくさん聞きます。悲しいことに、そのような話は本当にたくさんあります。みなさんは決して仲間から盗んではいけません。盗むのではなく、共通の利益のために協働するべきなのです。同じ事はコンテストにも言えます。

奇妙な話に聞こえるかも知れませんが、これがあなたのマジックを成長させる唯一の道です。FISMほどのコンテストでも、競い合っているコンテスタントたちが、舞台裏では裏方として互いの演技を補佐している場面を何度も見てきました。どちらかが入賞したときには、当然選にもれた方は落胆するでしょうが、それでも一緒に関わった演技が成功したことを共に喜び合うのです。互いの成功を分かち合うことができ、また落胆している人を助けようとするならば、マジックという芸術の形はますます進化できるのです。

「ワールド・チャンピオンシップ」を名乗ることができるほどハイレベルなアクトが集まるFISMは、入賞するアクトとはどのようなものかを学べる格好のチャンスです。勉強としては、そういった演技についてまず読んでいきましょう。FISMの全コンテスト・アクトのレポートがこのサイトで読むことができます(英語サイト)。

他の人たちが見いだせない入賞アクトの秘密を見つけられるかも知れません。

私は名誉なことに2003年、2006年、2009年のFISMで審査員を務めていましたが、ここでは2009年の場合をもとに話を進めましょう。FISMでは次の6つの項目を審査し、それぞれにポイントを振り分けていきます。

・技術/ハンドリング (Technical Skill/Handling)
・ショーマンシップ/プレゼンテーション (Showmanship/Presentation)
・エンターティメント性 (Entertainment value)
・芸術性/全体構成 (Artistic Impression/Routining)
・オリジナリティ(Originality)
・魔法らしさ (Magic Atmosphere)

 

【技術/ハンドリング】
ここで満点を取らないことに、言い訳はできません。やろうとしているのがどんな種類のアクトであれ、ここでのミスは許されないからです。ハトのジャリを取るのにまごついたり、パームしているカードが見えたり、四つ玉がフラッシュしたりするなら、今すぐステージから降りて練習場へ戻るべきです。

人は誰でも緊張するのだから私の言い方は厳しい、と言う人もいます。それは分かりますが、緊張と練習不足はまったく別物です。また緊張から来る失敗は一度目は気付かれなかったとしても、次からは結局減点されるのです。カードのファンがあなたの歯並びよりもガタガタであれば、この項目での高得点は期待できないでしょう。
 

【ショーマンシップ/プレゼンテーション】
ここは緊張を乗り越えなければならないところです。自信に溢れ、状況を的確にコントロールし、しかし偉ぶったりうぬぼれていてはいけません。落ち着いて演技をしたりセリフを言ったりしなければならず、一瞬で観客の心を掴んで演技中その状態をキープしておかねばなりません。

昔ながらのハト出しを演じるのは構いませんが、演技にはどこかにあなたらしさが反映されていなければなりません。磁石のように観客を演技に引きつけるのは、そこなのです。練習で自分を撮るように、観客の様子もビデオに撮りましょう。観客はあなたの一挙手一投足に引きつけられていますか?それとも周囲を見渡したり時計を見たりしていませんか?

映画の「キャット・ウーマン」と「バットマン・ビギンズ」の違いは何でしょう。両方とも魅力的なキャラクターがいて、アクションも豊富で、見栄えのするシーンに溢れています。しかしバットマンのストーリーの方が、何故かはわからず演技も演出もより面白く興奮して見られるものです。同じことが、あなたのアクトにも必要なのです。魅力的なキャラクター、たくさんの驚き、そしてよく錬られたマジックが必要なのです。
 

【エンターティメント性】
たくさんの人が、この項目が最も重要だと行っています。一般的なパフォーマンスのコンテストならそうでしょう。しかし歌手やコメディアンたちと一緒に出ている一般の芸能コンテストで、どれだけのマジシャンが上位に入っているでしょうか?世の中にはマジシャンだけが楽しめるようなアクトがたくさん演じられていますし、意識してそんなアクトを作っている人もいるでしょう。

正直に言って、弁護士の集まるコーポレート・ショーでは弁護士ネタを入れた方が盛り上がりますし、ゴルファーの集まる会場ならゴルフネタが喜ばれます。従ってマジシャンが多くいる場でマジシャン向けの演技をすることは、確かにエンターティメント性を上げる意味で間違っていません。しかし気をつけてください。審査員の中にはマジシャンでない人も含まれていますし、マジックの専門家の中にも「マジシャン相手にはいいかも知れないが、実際の現場では使えない」と言って減点する人もいます。従って、マジシャンをクスリと笑わせる分には構いませんが、テクニックをひけらかしたり内輪ネタに走るのは避けるべきです。

ついでに言うと、エンターティメント性に欠けるアクトを我々は本当によく目にします。エンターティメント性はショーマンシップやプレゼンテーションと密接に関わっていますが、演技で使うマジックのチョイスも同じくらい関わってくる問題です。テクニックを見せるだけでも、つまらない現象ばかり繰り返していてもアクトは成立しません。もしくは冗長でカードを選ぶまでのプロセスが複雑な流れを避けて、本気で作り込みでもしない限りはね。しかしややこしいプロットや状況設定をする時間があるなら、現象を代わりに何個か入た方が良いでしょう。

観客にデックを渡してシャッフルしてもらう場面をよく見ますが、これはその間ずっと客席の興味を引き続けて楽しんでもらわなければいけないので、とても大変です。そのリスクをしっかり理解して、アクトを作るときはそんな場面をなくしてしまうようにするのも手かも知れません。
 

【芸術性/全体構成】
この項目も、マジックや現象というよりもパフォーマーに左右される内容です。仮にまったく関連性の無い演技を3つ組み合わせて演じるとしましょう。例えばハト出しの後でブックテストをやり、ケースの中でサイコロを左右にスライドさせるマジックを演じるとか。その場合、この項目の点数は非常に低くなるでしょう。もちろん、素晴らしい構成力と演出でこの3つを有機的に関連させられれば話は別ですが。

また映画を例に出しますが、良い映画にはまず素晴らしいストーリーがあり、様々な要素が重なり合って提示され、最後にはそのすべてが一つになって満足のいくクライマックスになるものです。例えば3つの別々の話で構成されている映画「トリロジー・オブ・テラー」のように、全く関連性の無いマジックを3つ合わせてアクトを構成することは可能ですが、それでもこの映画でも「恐怖」というテーマは一貫しています。

多くの人が、私の「ラナラウンド・スー」のアクトを良い構成の例としてあげてくれています。個別の現象すべてが共通したテーマのもとでおき、共通した道具を使い、最後のクライマックスへ向けて絡み合うフローを成しているからです(この手順はぜひDVDを見て勉強して欲しいですが、あからさまな宣伝みたいでイヤですね!)。

芸術性のある手順をくみ上げる方法はたくさんありますが、自分で選んだ「独特な道具」を使って普通のマニピュレーションをやるという陳腐な手は使わないでください。もしドーナッツでリンキング・リングをしたいのなら、それ以外の部分もドーナッツに絡めた演技にすることで、ドーナッツを使う必然性を出す必要があります。ドーナッツを増やしてからクライマックスにジャンボ・ドーナッツを出すような安易な演技を作って、それで芸術性が評価されるとは思わないでください。


【オリジナリティ】
最も挑戦的で、最もシンプルな項目です。まずはできるだけ多くのアクトを見てください。他の人たちが何をしているのかをまず見てから、それを将来やろうとしている演技の候補からはずすのです。制限がある状態で始める方が、何をしても良い状態よりも簡単なものです。

「なるほどゾンビはやめよう。リンキング・リングも新聞の復活もやっちゃだめ…じゃあ何をしたらいいんだ?」と思うかも知れません。答えとしては、まず鏡を見ることです。もし(大抵の場合はそうなのですが)鏡があなたにウソを言うようなら、正直な友人に聞いてみてください。驚くかも知れませんが、なんとあなたはランス・バートンでもデビッド・ブレインでもクリス・エンジェルでもないのです。

この世にはあなたにしかないユニークなマジックの見方があり、それをどう演じるべきか、を探り当てなくてはいけません。そして実際に思いつくときもあるでしょう。しかし大抵あなたはそれは間違いだと思い、他の人たちと同じ分かりやすい道をたどってしまうのです。あなたには自分の好きな音楽や映画、服装などがあるはずですが、そういったものの組み合わせがあなたのユニークで独特な人格を形作っています。あなたのオリジナル・マジックがわき出てくるのはその人格からであり、自分が何者かが分かれば、どんなマジックがあなたに合い、どういうものが合わないかも分かります。その部分を、より深く掘り下げて考えてください。ありていに言えば、審査員がオリジナリティを判断するときは現象だけでなく、プレゼンテーションやパーソナリティも同様に考慮に入れているのです。


【魔法らしさ】
これの有無が、他の芸能とマジックとを分けるものです。当然あなたはエンターティメント性を最大限追求しなければいけませんが、それを笑いでも絵画でもなく、マジックのアクトとして行う必要があります。

また映画を例に取りましょう。アクション映画を観れば、脈は速まり、アドレナリンが分泌されるでしょう。ロマンティックな映画を観れば感動し、登場人物に感情移入をして涙を流すかも知れません。マジックのアクトを観たときには体中を期待感が駆け巡り、目の前のステージで不可能な事がおこるたびに興奮を感じるようにしたいはずです。どんなスタイルのアクトでも、きちんと構成されたものならばその感覚を観客に提供することができます。

例えばマニピュレーション・アクトならリー・ウンギョルが指先で物を煙のように消した瞬間。コメディ・アクトならスコット&ムリエルの演技で、ムリエルが階段の中に入っていないと分かる瞬間。メンタル・マジックならダレン・ブラウンの数ある演目で、どんな理論的なタネの可能性も窓の外へ放り出してしまい、魔法だとしか結論づけられない瞬間。「本物の魔法」ならばどんな風に見えるかを考え、それをライブで演じる道を考えるのです。

/////

コンベンション用のアクトを作ることの面白さは、これが入賞を狙うアクトであると同時に、仕事としてマジシャンを探している人に見せるものでもあるところです。自分自身を売り込むためのあなたにしか提供できない商品を作っているわけです。どうか時間を割いて自分のアクトを作ってください。コンベンション入賞は短期的な目標としてください。入賞できてもできなくても、本当の見返りはその後に来る「実際の現場」で手に入れられるはずなのですから。

さておさらいですが、FISMでは以下の項目に即して採点をします。

・技術/ハンドリング (Technical Skill/Handling)
・ショーマンシップ/プレゼンテーション (Showmanship/Presentation)
・エンターティメント性 (Entertainment value)
・芸術性/全体構成 (Artistic Impression/Routining)
・オリジナリティ(Originality)
・魔法らしさ (Magic Atmosphere)

問題は、この6つのうちどれが一番重要なのか?です。


次回はこの続きからお届けします。

第2話 FISM審査員が語る!FISM入賞の秘訣

第3話 FISM審査員が語る!FISM入賞の秘訣

なお原文はこちらでご覧頂けます(英語サイト)。