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日本マジック界の底上げと、マジックの文化土壌の実現を。

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ティム・エリスによる「FISMで入賞するには」の翻訳。第1話では、FISMのコンテストではどのような審査項目があるのか、第2話では6つある審査項目の中で一番重視すべきものについて書きました。

さて、この記事もいよいよ最終回です。オリジナリティとエンターティメント性を重視したアクトがイメージできたとして、どうやってそれを実現すればいいのでしょうか?に踏み込んでいきます。


まずは“制約”を設定しましょう。

  • 時間:演技をする時間の範囲は決められているか?
  • ステージ:最低限必要なスペースはどれくらいか?
  • テーブルの表面:クロースアップをする際は、自分のテーブルを持って行けるのか?それとも会場のを使わなければならないか?
  • セットの手間:セットをする時間は十分あるか?
  • 火の許可:会場は、火やスモークもしくは同種の舞台装置を使っても良い場所か?
  • 言葉:もしセリフを言うのであれば、大多数の観客に通じる言語は何か?
  • 話題:アクトのテーマには観客にとってタブーなものや、激しい議論の火種になるようなものは含まれていないか?
  • 文化:考慮しておかねばならない文化的なジェスチャーや言い回しはないか?
  • ビデオ:演技がスクリーンに映されるなら、演技はカメラに対して行うべきか、それとも観客に対するべきか?
  • 角度:考え無しに置かれたカメラや観客の位置に対して、仕掛けが見えてしまうことはないか?
  • 照明:下手な照明操作や切り替えのミスによって、演技に支障はでないか?

 

これらの答えや演技の枠組みがしっかり見えてくればくるほど、思い描いたアクトを現実に引き寄せるはっきりとした手がかりになります。これらのことは初めは考えなくても構いませんが、いずれしっかりとした答えを出さなくてはなりません。半年かけて準備した手順が実はステージに入りきらない大きさだったら、準備の時間が無駄になってしまいます。また制約を設定することで、非現実的なアイデアや手法をそぎ落とすこともできます。

では理想とする演技が、仮にランダムに選んだ観客をステージ上で浮かせるというものだったとしましょう。

まず考えるべきことは、この一つのコンセプトで8分から10分の間演じられるかどうかです。他の要素も加える必要はないでしょうか?舞台に登場したらすぐ観客を選びにかかるべきか、それとも観客の心を掴む現象を一つやってから観客を選びに行くべきなのか?登場場面はとても重要です。従って初めに観客の心を掴むことをやるのは、理にかなっています。であればまず自分を浮かせることから初めても良いかも知れません。

しかし、ここにテーマを設定することの罠があります。もし初めに自分が浮いてしまえば、それは後で観客を浮かせることの驚きを弱めることになってしまいます。それはしたくありませんが、しかしどのようにかして観客の無意識の中に「ラストに観客が浮くことでクライマックスとなる」ということをすり込ませる必要があります。

私の「ランアラウンド・スー(Runaround Sue)」のアクトを例に取りましょう。これはミルクシェークのカップでカップ&ボールを演じる手順です。このカップは普通はミルクシェークを飲むための道具ですが、ここではその代わりにマジックの道具として使っているわけです。しかし最後には中から本当にミルクシェークが出てきます。ここで大きな驚きが生まれますが、それはミルクシェークの出現がマジックの文脈とまったく関係ないにも関わらず、本来のカップの使い方に沿ったものであることが原因の一つです。

このプロセスは、よくできたミステリーにも似ています。最後に犯人の正体が暴かれたときに、驚くと同時に「そりゃそうだ!犯人はあいつしかあり得ないじゃないか。すべてのつじつまが合う!」と思うのと同じなのです。

ではこの感覚をどうやって観客を浮かせる現象に組み込めるでしょうか。
シンプルなアイデアとしては、このアクトを「体重を軽くする薬」の商品宣伝の体で行う、などが考えられます。

例えばステージにはテレビを置いて、体の大きな人がそれを見ている場面から始まる。画面が急に乱れ、その人がテレビを直そうとするが、そこでテレビがバラバラになったりもとに戻ったりする。TV画面には番組が表示され、それが宣伝番組。突然テレビが壊れ、中からあなたが司会として登場し、先ほどの人に一対一で売り込みを始めます。例えばダイエット薬を使っていくつか簡単な現象をおこしてから、テレビを見ていた人を(衣装チェンジの要領で)スリムな体型に変えてしまうとか。それから大きめのダイエット・ピルをマジックで出現させ、それを客席に投げてランダムにアシスタントを決めます。ステージに上がってもらい、その薬を握りながら「体重が軽くなる」と念じてもらうと、観客が浮き出すのです。マジシャンが薬を取り上げても観客は浮き続け、ひとしきり浮いたらゆっくり地上に戻り、終わります。観客が浮くという現象は誰も予期せずにおきますが、考えて見るとつじつまはしっかり合っているのです。

もちろんこの演出は誰のスタイルでもできるというものではありません。そこで別の案も考えてみましょう。観客が浮くという現象は変わりませんが、メンタル・マジックのクライマックスとしては使えないでしょうか?

例えば大きなカードが4枚、おもて面を客席に向けた状態でステージ上で回転しているところを想像してください。アナウンスが流れて、観客にそのうちの1枚を思い浮かべてもらうよう言います。カードの回転が止まり、声が言います。「あなたが選んだのはスペードのエースではありませんね」スペードのエースがステージ上に落ちます。「ダイヤの3でもありません」ダイヤの3が落ちます。「クラブの6でもないでしょう」これも同じく落ちます。「つまり、覚えてもらったのはハートのジャックです」そのカードが落ると、その後ろに潜んでいたマジシャンが姿を現します。6人の観客にステージ上に上がってもらい、一列に並んでもらいます。マジシャンは缶ジュースを取り出してプルタブを開け、観客の一人に渡します。自分は目隠しをしながらこう言います。「缶ジュースを皆さんに渡していってください。そして誰か一人だけ、飲んでください」マジシャンが目隠しを取って観客を見渡すと、そのうちの一人が浮かび出します。そしてそれが、ジュースを飲んだ人なのです。

このように、一つの現象を取っても様々な演出やスタイルが考えられます。

自分に合ったスタイルを決めるには、あなたがどんなパフォーマーかを自分で正確に理解する必要があります。理想の演技を実現するためにテクニックの面からアプローチする場合は、ダリエル・フィッツキーの『トリック・ブレイン』をぜひ読んでください。この本を活用している人は少ないですが、とても素晴らしい本です。想像した現象を実現する手法を、どうやって思いつくかに関する有益なアドバイスに満ちています。

クリエイティビティは筋肉と同じです。鍛えるためには、毎日の訓練が必要なのです。

新しいマジックやアイデアを思いつくことを習慣にし(不可能に見えれば見えるほど良いでしょう)、今日からそれをノートに書き留めていってください。

ティム・エリス


「ラナラウンド・スー」

いかがでしたでしょうか?FISMのアジア予選である FISM ASIA が2014年10月31日から韓国・ソウルで行われます。そこでアジア諸国のマジシャンたちが腕を競い、上位入賞者が2015年にイタリアで行われるFISMの本戦に出場することになります。日本の若いマジシャンたちに是非頑張って欲しいと思います。

第1話 FISM審査員が語る!FISM入賞の秘訣
第2話 FISM審査員が語る!FISM入賞の秘訣