映画『Stealing Magic』とタネの海賊版問題

マジックの世界には、昔から変わらない約束事があります。「秘密は、それを学ぼうとする人のためにある」ということです。

今年6月、ニューヨークのトライベッカ映画祭(ロバート・デ・ニーロらが創設した、米国有数の映画祭)で、この約束事を真正面から扱ったドキュメンタリー映画がワールドプレミアを迎えました。タイトルは『Stealing Magic(マジックを盗む)』。マジックの秘密を盗み、闇サイトで売りさばく人物を、マジシャン自身が国際的に追跡していく実録作品です。

マジシャンが「泥棒」を追いかけた

追跡の中心にいるのは、世界中のマジシャンが利用するマジック専門ショップ「Vanishing Inc.」の共同創業者、アンディ・グラッドウィン。彼らが販売するレクチャー映像や書籍——つまりマジシャンたちが人生をかけて作り上げた作品——が、海賊版として大量に流通している実態を突き止めるところから、この映画は始まります。

監督はマシュー・テスタ。TV番組「Fool Us」でおなじみのペン&テラーも出演しています。Rolling Stone誌は「今年のトライベッカで最高の作品の一つ」と評しました。マジックの内幕もの、というだけでなく、一本のクライム・ドキュメンタリーとして評価されたことに、意味があると感じています。

「種の海賊版」は、日本でも他人事ではありません

この映画が扱っている問題は、遠い海外の話ではありません。

日本でも、レクチャー映像の違法アップロードや、解説の無断転載は残念ながら珍しくないのが実情です。「たかが種明かし」と思われるかもしれません。しかし、レクチャー作品の一本一本は、クリエイターが何年もかけて磨いた演技と研究の結晶です。それが無断で出回るということは、次の作品を生み出す力を、業界全体から少しずつ奪っていくことでもあります。

翻訳の仕事をしていると、一本の作品の裏にある年月を間近で見ることになります。だからこそ、この映画が「秘密を守ること」を古臭い掟としてではなく、「創作者への敬意」の問題として描いたことに、強く共感しました。

秘密は、学ぼうとする人のためにある

では、私たち愛好家にできることは何でしょうか。

答えはシンプルだと思います。良い作品を、正規の形で手に取ること。そして、そこから学んだことを大切に演じること。それだけで、クリエイターには次の作品を作る力が届きます。

『Stealing Magic』は現時点で日本での公開情報はまだありませんが、公式サイト(下記リンク)では作品情報や予告編を見ることができます。続報があればこのコラムでもお伝えするつもりです。マジックの秘密をめぐるこの物語が、日本の愛好家のあいだでも語られる日が来ることを願っています。

マジック界の底上げのために。


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