Mr.マリック絶賛!
トリックより大切な「上達の秘訣」を凝縮
当店ではふだん、自社で制作した商品を中心にご紹介していますが、そのなかで本書は内容が当店の理念に深く重なるものであり、また出版元による熊本地震支援のチャリティ企画にも強く共感したため、今回特別にご紹介する運びとなりました。
自分の演技を、最後まで見返せますか
自分のマジックを撮った動画を、途中で止めたことはありませんか。
私(滝沢)はあります。学生の頃、発表会のビデオを見返していて、開始1分で再生を止めました。ミスはしていないし、こだわったところもできていた。なのに、画面の中の自分をどうにも見ていられなかったのです。何が悪いのかを言葉にできないまま、「まあ、次はもっと練習すればいい」とビデオテープを棚にしまいました。
あれは、とても時間を無駄にした選択だったと今は思います。
新しい技法を覚える、新しい現象を組み込む。それは楽しい作業です。でも、自分の演技の「見たくない部分」だけは、なぜか毎回きれいに避けて通ってしまう。心理学には、都合の悪い現実から目をそらす傾向を指す「ダチョウ効果(オーストリッチ・ファクター)」という言葉があります。砂に頭を突っ込んで、危険が見えなくなれば安心してしまう、あのイメージです。
この本のタイトルは、そこから来ています。
この書籍で解決できる悩み
『オーストリッチ・ファクター:マジック上達の秘訣』は、技法の本ではありません。かといって、「気持ちが大事です」で終わる精神論の本でもありません。
著者のジェラルド・エドマンドソンが書いているのは、自分の演技を直視して、どこをどう直すかを決めるための手順です。
頭の中のイメージを紙に落とす方法。技法を「できる」から「使える」に変える練習の組み立て方。観客の注意がどこを向いているかを把握し、操作する考え方。セリフの推敲。そして、それらを一本の演技に組み上げる作業。
つまり、以下のような悩みに答える本です。
技法は一通りできるのに、演じると手順の説明みたいになってしまう。
同じマジックなのに、自分の演技では場が静まり、うまい人がやると大きく盛り上がる。
ミスディレクションという言葉は知っているけれど、実践で何をすればいいのかいまいち説明できない。
練習しているつもりなのに、去年の自分と今年の自分が何も変わっていない気がする。
読み終えたあと、何が変わるか。いちばん大きいのは、「自分の演技を最後まで見返せるようになる」ことです。粗が見えても、それが直せる粗だとわかっているので、止めずに見られる。次に何をすればいいかがわかる状態で見返す動画は、苦行ではなく作業になります。
そして、演技が変わるでしょう。あなたのレパートリーの中でいちばん自信のない一本を、この本の手順に沿って一度分解してみてください。どこで観客の目線を集め、どこで逃がすのか。この一言は本当に必要なのか。この持ち替えは、なぜ今なのか。組み直したあと、友人に見せたときの反応が、以前とは変わっているはずです。「え、なんで」の前に、一瞬の沈黙が入る。あの沈黙が、演技が届いた合図です。
こんな方に向いたコンテンツです
マジック歴が1年以上あり、演じるレパートリーがいくつかある方
技法や現象は増えたのに、演技そのものが良くなっている実感がない方
人前で演じる機会がある方(プロ・アマ問わず、飲み会レベルでも構いません)
自分の演技を録画して見返す習慣がある、もしくはこれから始めたい方
クロースアップ、ステージ、メンタリズムなど、ジャンルを問わず「届け方」を鍛えたい方
読んだ内容を実際に手を動かして試す気がある方
こんな方には向かないコンテンツです
新しいマジックの手順やトリックを知りたい方。この本に「作品」は載っていません。
マジックを始めたばかりで、まだ演じられる手順がひとつもない方。分解する対象がないと、本書の手法は空回りします。まずは好きな作品をひとつ、通しで演じられるようにしてからのほうが、何倍も効きます。
読んで納得するだけで満足したい方。本書は書き込み、試し、直すことを前提に書かれています。
自分の演技の欠点を指摘されるのが、どうしても嫌な方。この本は、それを自分でやるための本です。
道具や仕掛けで悩みを解決したい方。ここに書かれているのは、道具では解決できない領域の話です。
知っておいた方が良い前提知識
特別な予備知識は要りません。専門用語は文中で説明されますし、マジック理論の本を読んだ経験がなくても読み進められます。
ただ、ひとつだけ用意しておいてほしいものが、ご自分が演じているマジックをひとつ。
本書の第1章には「ストーリーボード」の記入例とひな型が載っています。演技を場面ごとに分けて、そこで何が起きているかを書き出すシートです。自分の手順を当てはめながら読むと、理解の深さがまるで違うでしょう。逆に、当てはめる手順を持たずに読むと、良いことが書いてあるなという感想で終わってしまう恐れがあります。
もうひとつ。動画を撮る環境があると理想的です。スマホで十分です。
著者について
ジェラルド・エドマンドソンは、アメリカで50年以上活動してきたプロマジシャンです。
この本が独特なのは、著者の経歴がマジック一本ではないところにあります。音楽学校でのトレーニング経験があり、ジャグリングやパントマイムにも通じている。だから「体をどう使うか」「間をどう作るか」を語る言葉が、マジック界の内側だけで通用する話になっていません。演奏家が音階練習を組み立てるように、パントマイマーが動きを分解するように、マジックの練習を設計していく。その視点が全編を貫いています。
そして本書の中心にあるのは、著者が自分自身の演技を徹底的に分析した記録です。他人に説教する本ではなく、50年やってきた人が自分の砂の中から頭を引き抜いた記録。だから読んでいて、責められている感じがしません。
日本語版の訳・編は山中邦人。翻訳が自然で読みやすいのはもちろん、日本語で演じる際のセリフ回しについての解説が加えられています。英語の理論書を読むとき、いちばんもどかしいのが「これ、日本語だとどう言えばいいんだ」という部分。そこに手が入っているのは、日本語版ならではの価値です。日本の著名マジシャンによる推薦文、参考文献一覧(洋書・和書)、そして付録として「外郎売」(滑舌と発声の稽古に、歌舞伎の世界で使われてきた早口言葉)も収録されています。
– マイケル・クロース
– デビッド・グッドセル
購入前の不安に、お答えします
内容が難しすぎませんか。
理論書ではありますが、抽象的な議論は最小限です。ストーリーボードのひな型、技法の練習手順、困ったときの対処法をまとめた「ヘルプファイル」の章まで用意されています。読んで終わりではなく、手を動かせる形になっています。マジック歴1年程度の方でも、演じている手順がひとつあれば十分に読みすすめられるでしょう。
特殊な道具は必要ですか。
不要です。必要なのは、あなたが今演じているマジックと、書き込むための筆記具だけ。強いて言えば、録画できるスマホがあると効果が上がります。
すでに演出論やショーマンシップの本を持っているのですが。
本書の立ち位置は、また少し異なります。多くの演出論は「良い演技とはこういうものだ」を語ります。本書が扱うのは、「自分の演技のどこが良くないのかを、自分で見つける方法」です。理想像ではなく、診断と処方の手順書。グッドセルが『マジック・アンド・ショーマンシップ』の隣に並ぶと書いたのは、同じ本だからではなく、隣に置く価値があるからでしょう。
実演で本当に使えますか。
本書の第7章のタイトルは「すべてを組み合わせてみましょう!」です。分解して終わりではなく、一本の演技として組み直すところまで扱っています。読み終えた翌週に、いつものレパートリーを一本かけ直してみてください。変化は、あなたが感じる前に観客の反応として返ってきます。
日本語版は原書と内容が違いますか。
本文の内容は原書に忠実です。そのうえで、日本語版には日本語での言い回しに関する解説、日本の著名マジシャンによる推薦文、付録の「外郎売」が加わっています。
スクリプト・マヌーヴァが選んだ理由
私たちは「マジック界の底上げ」を掲げて活動しています。
底上げというのは、新しいトリックが増えることではありません。ひとりのマジシャンが人前に立ったとき、その場にいる人が「マジックって面白いな」と思って帰る。その打率が上がることです。そして打率を決めているのは、手順の斬新さより、演じ手が自分の演技をどれだけ直視できたかだと考えています。
この本は、そこを正面から扱っている数少ない一冊でした。しかも、精神論に逃げずに手順として書いてある。20年前の本ですが、内容が古びていません。技法のトレンドは変わっても、人の注意の向き方は変わらないからです。
最後に
新しいマジックを買うのは楽しい。私も好きです。
でも、引き出しに入れたまま演じていないマジックがいくつもある一方で、いつも演じるマジックは数年前から変わっていない。心当たりがあるなら、次に買うべきは新しい作品ではないのかもしれません。
この本を読んでも、明日すぐに新しい現象が演じられるようになるわけではありません。むしろ最初にやってくるのは、自分の演技の粗が見えるという、あまり気持ちのよくない体験です。ただ、その先があります。見えた粗は直せる。直した演技は、観客の顔つきを変えます。
砂から頭を出すのは、少し勇気が要るでしょう。しかし、出してみると、その景色は案外良いものかも知れません。



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