既存のトリックを自分に合ったアクトに変える天才の手腕が光る!
一つのトリックを、いかにして自分のキャラクターに合うように演出すればいいのか?
その考え方と豊富な実例が詰まった一冊が出来上がりました!
マジックの情報が多く手に入るようになり、いまや多くの人が同じマジックを演じるようになりました。演技が始まるやいなや「ああ、あのマジックか」とすぐに分かってしまい、最後までその感覚がぬぐえない演技をするマジシャンも多く見かけます。
ハンサム・ジャックが演じるアクトも、トリック自体はどこかで見たことがあるもの…と思うかも知れません。しかし、彼のパフォーマンスは他のマジシャンとはまったく違います。引き込まれ、時間を忘れて見入ってしまう…自然に笑いがこみ上げ、そして不思議。「何を演じるかではなく、誰が演じるのかが問題だ」という言葉を見事に体現するパフォーマンスを見せてくれるのです。
それはなぜか
それは彼が、台本作りと改案の天才だから。
自身でも自分の強みは「台本を練り込む力」と言う彼のパフォーマンスは、確かに単純なトリックに設定と自然な流れを盛り込み、マジシャンも不思議がらせ、最後には綺麗にオチをつけて終わります。「自分はショーとかでなく、ただ友人にマジックを見せたいだけだから、台本なんていらないよ」と言う言葉に対して「演者が気づいていようといまいと、どんな演技にも台本は存在する」と言い、それを意識しないことで失われているものの大きさを語り、他の演者には出せない面白さを引き出す方法を教えてくれます。
またトリック面でも、自分の演技に合わない部分を取り除き、演技に合う面白さや不思議さを強調する、たぐいまれなる編集能力を見せます。これがあるから、馴染みのあるトリックを演じているにも関わらず、彼のパフォーマンスはマジシャンも引っかけ、エンターティメントとしても上質なものとなっているのです。
しかし、どうしたらそれができるようになるのか?
台本作りに関しては、本文にある2つのエッセイ「パフォーマンスというパズルにおけるペルソナとその他の要素」と「台本作りとそれに関わる大切なこと」でカバー。キャリアの前半を演劇畑で築いてきた彼の考え方が詳しく書かれており、ここだけでもパフォーマンスの質を上げたいと思う人にとっては非常に大きな価値があるでしょう。
改案についても、20種類のパーラー・マジックを解説。彼がどのように元のマジックを取り込み、解体し、自分のキャラクターと演技の目的に合うよう構成しなおしたかの例をじっくり見ることができます。
ハンサム・ジャックとジョン・ロヴィック
これを書いたハンサム・ジャックは10代からファッション・モデルとして第一線で活躍し、世界的な名声を得ました。多くの有名雑誌の表紙を飾り、セレブたちと交流する生活を続けていたものの、その輝かしいキャリアの途中で自分にマジシャンとしての天性の素質があることに気づき、人生の進路を大きく変えます。そしてマジシャンとしての才能を開花させた彼はペン&テラーのTV番組「フール・アス」で見事に彼らを騙し、ハリウッドのマジック・キャッスルでもパーラー・マジシャン・オブ・ザ・イヤーに13回もノミネートされ、いまや多くのコンベンションにゲストとして引っ張りだこにされるまで存在感を高めてきました。ファッション業界のみならずエンターティメントの世界でもいま正に頂点に立たんとしている…というのが、ジョン・ロヴィック演じるハンサム・ジャックのキャラクター設定。
そう、ハンサム・ジャックとは、ジョン・ロヴィックが演じるキャラクターなのです(マジシャンとしての実績の部分は本当)。この本は、ナルシストで勘違い男であるハンサム・ジャックが自身の演じてきたマジックを公開するという(設定の)もので、それらのマジックをブレインとして(という設定で)考案してきたジョン・ロヴィックが欄外に注釈をつける形で構成されています。自分に都合のよいことばかり書くハンサム・ジャックの本文と、それにあきれながら詳しいコメントや正確な出典を注釈していくジョン・ロヴィック。この2人(?)のやり取りも読みどころとなっています。
ナカノマクレーン –
変わったスタイルで描かれている本で読んでて面白く、掲載されているマジックもどれも実践的な非常に内容の濃い書籍です。
字が少し小さくて読みにくいのですが目を凝らして読む価値あります。
これを読めばきっとレパートリーするお気に入りのマジックが見つかると思います。